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1-10 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴⑥
前回は、1回目のカヤバ工業の技術的特徴を分析しました。
今回は、前回とは、分類の異なるカヤバ工業の技術的特徴を分析してみたいと思います。
今回取り上げる分類は、1-4耐震・免震の技術的特徴の分析における分類(10)にスポットを当ててみたいと思います。
分類(10)は、同じような地盤との間に免震支承手段を設けたものの中で、「ころがり支承によるもの」という分類です。
分類(4)も「ころがりによるもの」という分類で基本的な構成としては、類似の技術が含まれてくると思われます。
それでは、具体的な登録特許を見てみることにします。
カヤバ工業の出願のうち分類(10)に含まれる7件中2件が登録特許になっています。
特許3795655(発明の名称:免震装置)
まず、この発明は、発明の属する技術分野として、「建築物、コンピュータ、美術工芸品などを地震災害から保護する免震装置」となっているので、これまでの住居の基礎上に設置される免震構造よりは、小型の免震装置に関わる発明です。
この発明の従来技術としては、コンピュータの台や美術品などをするためのショーケースなどの下部に4つの突設された支承部を設け、支承部の下端にスチールボールが回転自在に保持されています。
この4つの支承部が転動可能にすり鉢状のベースプレートが設けられており、地震時にスチールボールがプレート内で転がることによって地震の振動を減衰するものです。
さらに、ベースプレートとコンピュータの台や美術品などをするためのショーケースの間には、各四辺に沿ってオイルダンパが4本取り付けられており、中央には、電磁作用を受けて上方に突出したり退避したりする係止突起が設けられています。
中央の係止突起は、地震時以外は、コンピュータの台や美術品などをするためのショーケースの係止部に
固定されているが、大きな地震が発生すると、電流を流すことで固定を解除し、スチールボールの転がりによる振動の減衰作用を生み出ます。
そして、オイルダンパによって、地震後にも惰性で揺れ続けるベースプレートを減衰作用によって吸収し、停止させる役割を持っています。
このような従来技術の課題として、地震時に通電によって係止突起の解除を行うが、停電になった場合に通電が行われず解除ができないという課題が挙げられています。
この課題は、補助電源を設けることで容易に解決できますが、それでは、コストがかかってしまいます。
そのため、補助電源を設けることなく地震時の停電状態でも確実に免震装置を動作させるためにこの発明は考案されています。
この課題を解決するために、構成としては、大きく変化はしませんが、まず中央の係止突起はなくなっています。
そして、オイルダンパ部分に従来にはない機能を付加しています。
その内容を簡単に言うと、減衰バルブに弁体を設け、大きな揺れの場合に油圧によって弁体が開くことでオイルダンパが作動するようになっており、小さな揺れの場合には、油圧が高くなく弁体が開かないのでオイルダンパは固定状態が保持されるようになっています。
このようなオイルダンパの構成によって、大きな揺れの場合にのみ通電することなく、免震作用とオイルダンパによる減衰作用を併用し、コンピュータや美術品などの倒壊を防ぐようになっています。
ちょっと去年の原発事故を思い出しました。
原発の場合は通電は必ず必要になってくるので違ってきますが、色々な角度から物事を見つめることの大切がわかりますね。
もう1件の登録特許を見てみます。
特許3867223(発明の名称:免震装置)
この発明は、ころがり免震自体の構成が少し異なっています。
下部のプレートとプレート上を転がることで免震作用を生み出すボールを有している点は同じですが、ボールとボール支持部の間に隙間を有し、その隙間をボールベアリングによってボールの転がりを助けています。
このボールベアリングは従来の場合には、一つ一つの小さな球への負荷が多き過ぎて破損してしまうことがあったが、ボールベアリングの数を増加させたことによって、一つ一つへの負荷を小さくして、破損や変形を防ぐというものです。
詳細に興味がある方は、上記のリンクから公報を読むことができるのでそちらからお願いします。
ここまでで、カヤバ工業の分類(4)(10)に含まれる登録特許4件の技術的内容を見てみました。
そのことから考えられるカヤバ工業の開発方針としては、住宅に限らず、コンピュータや美術品を保護するショーケースなどの免震装置の開発も行っており、主な構成としては、ボール部を有する転がりを利用した免震の開発が中心となっています。
転がり免震そのものの改良も行っていますが、それだけでなく、転がり免震に付随する「オイルダンパ」や「ボールベアリング」などの改良も行っているように転がり免震を中心として、さらに安全性の高さを追求し、振動減衰という視点からだけでなく、停電時への対応などのように角度の異なる視点からの改良も進めています。
去年の大震災によって、新たな課題を捉えどのような改良発明を出願しているか、今後も見てみたいと思います。
前回と今回でカヤバ工業の技術的特徴を分析してきました。
次回は、旭化成ホームズの技術的特徴を分析していきます。
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1-9 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴⑤
長らく更新できず、久しぶりの更新です。
前回までで、オイレス工業、大和ハウス工業、フジクラの技術的特徴を分析してきました。
主要出願人の技術的特徴は、今回を含めて後3回にします。
今回は、カヤバ工業の技術的特徴について分析していきたいと思います。
カヤバ工業は、振動制御やパワー制御技術による油圧機器、自動車やバイクのショックアブソーバー、そして今回の分析の主題である免震用ダンパーなどを主力製品としている企業です。
企業として注力している技術は、振動などの制御ですので、免震技術はカヤバ工業の技術の中心から派生して、製品化につながっていると思われます。
カヤバ工業の出願傾向は、1-4の耐震・免震技術の技術分析のグラフから分類(4)と(10)に集中しています。
まず、分類(4)は、大和ハウス工業やフジクラにおいても取り上げた移動を許容する支承または類似の支持体の中で、「ころがりによるもの」という分類です。
字のごとく、球状の物体が皿状の受け部を転がるようにして揺れを減衰するような技術(球状と皿状に限定はされませんが。)に付与されます。
そして、分類(10)も、同じような地盤との間に免震支承手段を設けたものの中で、「ころがり支承によるもの」という分類です。
カヤバ工業の特徴としては、ダンパーなどの振動制御が技術的に強みと思っていたのですが、ここでは、どちらの分類もころがりに関するものです。
さて、具体的な技術内容はどのようになっているでしょうか?
それでは、分類(4)を筆頭のFIとして出願されている8件の中で登録特許になっている2件の内容を見てみたいと思います。
特許3594403(発明の名称:免震装置)
この発明で挙げられている課題は、「上下の円錐形の受け皿と上下受け皿の間にボールを有する免震装置を基礎と建築物の間の四隅に設置する場合、ボールの半径と上下受け皿の傾斜角度は、各免震装置ごとにボールが外れてしまわないように計算されて設計されているが、複数の免震装置を同一の基礎に設置する場合に制作誤差でボール半径と受け皿の傾斜が異なってしまって、正常に免震動作が得られない。」というものです。
つまり、従来から100%同一形状の免震装置は得られず、複数設置の場合、その誤差によって免震効果が弱まってしまうので、誤差を補う構成を取るようになっています。
この発明の図を見てみます。
まずは、従来の転がり免震装置です。
本発明では、この免震装置にハウジングと呼ばれるボールの転がりを許容しながらボールを密封する部材を設けてあります。
そして、基礎の四隅に設置される各免震装置は、押さえバンドを介して連結棒によって連結されています。
このような構成を取ることで、
隣接するボールハウジングが互いに押えバンドと連結部材によって連結されているために、各ボールハウジング内のボールは、単独で転動せず、各ボールが共に同一方向、同一量だけ転動することとなり、一つの下部円錐面受皿上におけるボールの位置と他の下部円錐面受皿上におけるボールの位置とが相互に異なることがなくなる。
更に、各免震装置のボールが個々に自由移動することがなく、各免震装置ごとのボールと下部円錐面受皿とのずれの程度が等しくなるため、免震動作の異常回避が可能になると共に、地震が止んだ後は、各ボールが正規の元の位置に自動復帰することとなる。
という、効果が生まれています。
特許3719810(発明の名称:ボール支承装置)
この発明の課題は、「免震装置のメンテナンス時に、下部の受け皿を交換する場合、取り外し可能な高さまで上部をジャッキアップするが、従来の場合には、かなりの高さまでジャッキアップしなければならず、作業に手間がかかり、負荷が大きいことから損傷していまうことがあった。」というものです。
このメンテナンス作業を軽減し、損傷させることがないようにするためにこの発明は考案されています。
この発明の免震装置に該当する従来技術は以下の図のようになっていました。
この発明では、従来と異なり、免震装置のボール部分の支持部にライナープレートと呼ばれる部材を設けてあります。
このライナープレートは、下部受け皿部の窪みとストッパリングと呼ばれるボールが受け皿から外れることを防ぐ部材との高さを合計した高さを有しています。
このライナープレートは、さらに、積層ゴムなどの弾性体によって形成すると微振動の吸収効果もあります。
下部の受け皿の交換作業を行う場合には、このライナープレート抜き取ることでジャッキアップを少し行えば交換作業が行えるようになるという効果が生まれています。
カヤバ工業の分類(4)に該当する登録特許の内容をまとめると、ころがり免震装置について少しだけ部材を追加することで、安全性を高めたり、交換作業を軽減するという考え方を持っています。
これらの出願は、1996年と1997年に行われており、阪神淡路大震災のあと浮き上がった「安全性の確保」や「メンテナンス容易性」といった課題に対応していると考えられます。
今回は、ここまでにします。
次回は、カヤバ工業の技術的特徴として分類(10)に該当する登録特許を見てみたいと思います。
最後までありがとうございました。
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1-8 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴④
前回までで、主要出願人の中で、オイレス工業、大和ハウス工業の技術的特徴を分析しました。
今回は、主要出願人中で20番目の出願件数であるフジクラの技術的特徴を見てみます。
フジクラは、通信関連のケーブルや機器、電子部品を主に扱う会社です。
1-3の主要出願人の年次出願件数を参照していただければわかりますが、耐震・免震技術からは撤退していると考えられます。
ですので、現在の製品情報にはすでに耐震・免震に関する製品はありませんが、当時の技術的特徴を見てみることでどのように耐震・免震の技術分野で製品を出そうとしたのかを見てみたいと思います。
フジクラの出願傾向は、1-4の耐震・免震技術の技術分析のグラフから分類(4)へ出願が集中しています。
分類(4)は、大和ハウス工業やカヤバ工業の出願も多くある分類で、免震技術における「ころがりによるもの」という分類です。
この分類が付加されるポピュラーな構成は、皿状の受け部と球状の物体によって構成され、球状の物体が転がることによって建物への振動を減衰する技術です。
この構成の技術についての改良発明が1995年の阪神淡路大震災以降に多く出願されています。
さて、フジクラの特許を見ていこうと思いますが、この分類に対して、主要出願人としてピックアップした30社の中では最も多い19件の特許を出願していますが、分類(4)が付与されているフジクラの出願は一件も登録になっていません。
つまり、フジクラの権利となった特許出願はなかったということです。
さらに、その内訳は大きく分けると3つのポイントに分かれています。
(1)転がり免震における部品削減によるコストセービング
(2)紐状の弾性体と転がり免震を併用し振動を減衰させる
(3)組立て可能な構成にすることで取り扱い、設置工事を容易にする
これらの中から(2)の紐状の弾性体を転がり免震に併用する技術を見てみます。
この発明の課題は、ゴムなどの弾性体と鋼板などの積層体のみで強度を高めようとして積層体を太くすると免震周期が短くなり、免震特性が低下してうこと、従来のバネ、ダンパ、転がり免震の三種類の免震装置を組み合わせた免震構造体では、構成が複雑巣すぎること、及び、耐風機能を備えた免震構造体の必要性が挙げられています。
それらの課題を解決するために、この発明では、単純な構成で安価で免震と耐風機能に優れた免震装置を出願しています。
構成は非常に単純で、転がり免震装置の周りを紐状の弾性体によって囲んだ状態です。
地震時には以下のような動きをします。
変位限定手段(チェーンなどにゴムなどの被覆材を被覆したもの)によって転がり免震が皿状の受け皿から外れることを予防しています。
もう1件紐状弾性体と転がり免震の併用をした出願がありますが、特に進歩性があるものではありませんでした。
フジクラは免震装置、特に転がり免震装置の改良発明によって耐震・免震技術分野に進出を考えましたが、転がり免震の分野では、有効な発明を世に出すことがなく撤退してしまったようです。
このように、出願件数の量だけを見るとシェアがあったように思われますが、実際の技術内容を紐解いてみると有効な特許を生み出すことなく撤退していった状況がわかります。
今回の分析から、数値による特許情報のみからでは、正確な判断は難しいということがわかるかと思います。
ちょっと拍子抜けな感じもしますが、今回はここまでにします。
最後までありがとうございました。
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1-7 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴③
前回は、大和ハウス工業の技術的特徴のうち分類(3)に該当する技術を分析しました。
今回は、その続きの大和ハウス工業の出願で主軸においていると思われる技術分類(4)に該当する技術を見てみたいと思います。
(4)の分類は、移動を許容する支承または類似の支持体の中で、「ころがりによるもの」という分類です。
大和ハウス工業の出願で登録になっている特許は全て、転がる形状を持った物体と皿状の受け部によって構成された免震手段です。
前回と重複しますが、大和ハウス工業は、戸建住宅やマンションの開発、建設、販売、賃貸及びリフォームなどを主な事業としている会社です。
そのため出願されている特許も戸建住宅に適用するための免震技術が多く含まれています。
それでは、転がり免震に関する大和ハウス工業の登録特許を見ていきます。
1-4 耐震・免震技術の技術分析の主要出願人先頭FI出願件数のマップでは、大和ハウス工業が分類(4)を付与している特許は公開、登録合わせて17件あり、そのうち登録特許は5件です。
①特許3958070
この発明は、転がり免震装置の施工方法に関するものです。
従来から転がり免震装置では、位置がずれないように上下の皿部同士をプレートで固定しながら建物への設置を行っていました。
このプレートを横方向からネジ止めするために上下皿部にネジ孔を横向きに加工しなければならず、この孔の加工が非常に厄介で、コストが高くつく、さらに、プレートは免震装置設置後に不必要な部材となってしまい処理しなければならないという課題が挙げられています。
この課題を解決するために、本発明では、まず上皿と下皿の形状を異ならせます。
上皿と下皿の間に球状を位置合わせを行い、縦のネジ孔によって螺合して固定します。
一体的に固定されている免震装置の下皿を基礎に固定します。
この時に上皿と下皿の形状を異ならせたことで下皿の固定作業に対して上皿が邪魔になることがなく容易に下皿を固定することができます。
上部建築物の免震装置と螺合する部分には、免震装置の上皿と固定するための縦のネジ穴と、免震装置の上皿と下皿を固定しているネジを抜き取るための孔が予めあります。
免震装置の固定後ネジを抜き取るための孔から免震装置を一体的に固定していたネジを抜き取るようになっています。
ほんのちょっとした改良ですが、作業効率が上がり、無駄な材料が減るという効果が生まれることで、コストの問題がよく取り上げられる免震装置の設置を促進しようとする狙いがあると思います。
②特許4073685
この発明も、①の特許のように平面的にコンパクトでコスト削減を効果とする免震装置に関するものです。
詳細は公報PDF参照してください。
③特許4159958
この発明は、ゴム弾性体による縦揺れへの対応と転がり免震による横揺れへの対応を備えた免震装置です。
最近も縦揺れの後に横揺れが続くというような地震をよく感じます。
東京で感じる程度のものだけでなく、さらに強いエネルギーを持った地震への対応のための発明です。
詳細は公報PDFを参照してください。
④特許4460410
4つめの登録特許は、過去に何度か触れている風揺れ防止機能を備えた免震装置です。
少し面白い風揺れ防止なので簡単に紹介したいと思います。
転がり免震装置の下皿と球体を有する部分はこれまでと同じです。
しかし、上皿に該当する部分が少し異なっています。
上皿に該当する上部構造部は、球体を保持するような形状になっています。
さらに上部構造部には、自重で降下する下皿と接することで風揺れを防止する風揺れ防止機構が設けられています。
この風揺れ防止機構を地震時以外は常に下皿と接した状態にしておき、風による揺れを防止します。
そして、地震が発生するとその横揺れのエネルギーと下皿の傾斜によって風揺れ防止機構が上方へ跳ね上げられます。
風揺れ防止機構が上方へ跳ね上げられた場合は、風揺れ防止機構が上部で保持させる機構があり地震の揺れが収まる程度の時間は下皿と接触しないようになっています。
複雑な制御をすることなく、シンプルな機構で風揺れと免震とを実現する発明です。
⑤特許4472859
さて、最後の登録特許です。
この発明では、転がり免震装置が大きな揺れを受けた場合に球体が皿部から外れてしまわないように皿部と球体とレールを使用して球体が外れるのを規制する機構を設けたものです。
従来からこのような技術はありましたが、ねじれのエネルギーが大きい地震時には、スムーズに作動しないという課題がありました。
その課題を解決するためにスムーズに免震装置を作動させるための改良発明がこの特許です。
詳細は公報PDFを参照してください。
大和ハウス工業の出願が顕著に見られた技術分野に該当する登録特許については以上となります。
大和ハウス工業の分類(3)と(4)にある登録特許から読み取れることは、戸建住宅に転がり免震装置を低コストで設置面積を抑えて普及させるための改良技術が中心です。
従来からある免震技術の課題点である、風揺れやさらに大きな地震に対応できる免震技術、また、複数の免震技術の組合せて安全性を高める開発に注力しています。
(3)(4)ともに共通していることは、免震装置として大和ハウス工業が採用しているのは、「転がり免震」を中心としている点が特徴として確認できたと思います。
昨年の大地震によって新たに免震装置の課題が生まれました。
戸建住宅や中規模マンションは、人が多くの時間を過ごす場所であることは今後も変わらないので、戸建住宅や中規模マンションの免震技術についての改良発明は今後も追っていきたいと思います。
今回はここまでにします。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
また、次回もよろしくお願いします。
1ー6 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴②
1-5 耐震・免震技術 主要出願人の技術的特徴①
前回は、1990年~2009年の間の主要出願人ごとの技術分野を分析しました。
1ー4 耐震・免震技術の技術分析
前回までは、1990年から2009年までの出願件数による動向を分析しました。




1ー3 耐震・免震技術の出願動向2
今回の話を始める前に。
前回の2010年の出願件数に関してのお詫び。
出願件数12件は少な過ぎると思って調べなおしたところ、やはり少なすぎました…
実際の件数は2009年よりも少し多くなります。
今後の分析については、件数が合わなくなるので、2009年までの出願について分析していきます。
また、前回出願件数動向から「アイデアの枯渇」といいましたが、出願件数と1990年からのことを考えると基本特許の権利も切れ始める頃で、アイデアの枯渇に近づいているというくらいにしておきます。
検索範囲の設定をミスしてしまいました…
すみません。
それでは、気を取り直して進めていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
前回は、1990年〜2009年(とさせてください…)の間における年次の出願件数を分析しました。
1995年の阪神淡路大震災の後、急激に出願件数が増加し、その後は、徐々に減少傾向が見られました。
2009年には100件台になり、1995年辺りの出願件数と比較するとかなりの減少が見られ、アイデア枯渇が近いように思われます。
今回は、耐震・免震技術に関する出願について、出願件数の多い出願人にスポットを当てて分析を行いたいと思います。
まず初めに、出願件数上位30社の20年間の年次出願件数をグラフ化すると以下のようになります。
清水建設(646件)、竹中工務店(514件)、鹿島建設(376件)、大成建設(317件)、大林組(246件)と続いています。
ゼネコン最大手5社が出願件数では、TOP5に並んでいます。
開発資金も他に比べると潤沢でしょうから当然と言えば当然かもしれません。
TOP5以下は、100件以上出願が5社、その他は100件以下の出願件数です。
次に、主要出願人の年次出願件数を見てみます。
※縦軸:出願人出願件数のグラフ横軸と同一
※横軸:1990~2009
ここでも年次出願件数推移と同様に1995年の阪神淡路大震災以後からの出願が増加しています。
やはり、1995年の地震のインパクトは大きかったのでしょう。
全体的に言えることは、ほとんど出願人が2000年以降に出願件数を減らしていることがわかります。
中でも、フジクラ、バンドー化学、住友ゴム工業、カヤバ工業のように、早い段階で開発を止め、撤退したと思われる出願人もいます。(三井建設と住友建設は2003年に合併しています。)
出願人に分けて年次の出願を追ってみても、出願人ごとに少々違いはあるものの、2009年頃には1995年に始まった開発アイデアは停滞気味です。
2010年以降の出願に関しては、今後も調べ続けて行こうと思います。(やはりどうなるのか気になるので。)
前回と今回で、単純な年次出願件数の推移と出願人ごとの件数推移の視点から見てみました。
ここから20年のスパンの中での耐震・免震の技術の「大きな」流れがある程度つかめたと思います。
次回からは、特許分類を分析することで技術的な内容に踏み込んで行くことにします。
また、次回もよろしくお願いします。
ありがとうございました。
1ー2 耐震・免震技術の出願傾向
前回は、耐震構造と免震構造の違いを簡単に説明しました。
日本は、地震の多い国ですので地震対策の研究は盛んです。
建築物に関する技術だけでなく、地震の予知、地震発生の早期把握、過去の地震記録の分析などなど。
「地震雷火事親父」と言われるように地震災害は、誰にとっても恐ろしいものです。
地震に関する研究の中でも、日々生活する家や仕事場に使用される耐震・免震技術は、多くの人に関わる技術の一つです。
耐震構造や免震構造に関わる技術として過去に特許出願された件数は膨大なものです。
その出願傾向を見ることで、どのようなことが把握できるでしょうか?
それでは、耐震・免震構造に関連した特許出願の傾向を見ていきたいと思います。
(1)分析母集団形成
検索期間:1990.01.01~2010.12.31(20年間)
検索式:式① IPC=(B65+E02+E04+E06)
式② FI=(B65+E02+E04+E06)
式③ 要約・請求項=(耐震+免震)
式④ 全文=(建築+建物+ビル+家屋)
式⑤ (①+②)×③×④
分析母集団:8,375件
※検索式について
IPC…International Patent Classificationの略で、(一応)世界共通の特許分類。
FI…File Indexの略で、日本特許庁独自の技術分類。
要約・請求項…特許権利範囲である特許請求の範囲及び要約書に含まれる単語を検索
全文…特許出願書類全て(特許願、明細書、特許請求の範囲、要約書)の範囲に含まれる単語を検索
(2)年次出願件数
1990年~2010年の年毎の出願件数をグラフ化してみると以下のようになります。
1990年~1994年までは、150件前後の出願件数が続いています。
思っていたほど多くはないですね。
ところが、1995年になると出願件数516件と大幅に増えています。
この年は、阪神淡路大震災の年です。
年明け早々の大地震に見舞われて耐震・免震技術の開発の必要性が増したと言えると思います。
1995年と1996年には、現在の耐震・免震構造の基礎となる出願が多く見られると思います。(後々詳しく見てみたいと思います。)
1995年~2000年の期間は基礎となる出願のアイデアが放出されながら出願件数は減少していきます。
2001年では、2000年と比較すると150件程度の減少が見られます。
この減少は、2000年の建築基準法の改正が関係するかもしれません。
耐震基準の見直しの中に「耐震壁の配置バランス」などの特徴があるようで、基礎となる出願の中でも法改正の影響で重要度が低下した基礎出願群が存在し、改良発明の出願が減少したものと思われます。
その後、少々の増減を繰り返しながら減少し続け、2010年には出願件数12件と驚くほど少なくなってしまいます。
基礎出願から改良を繰り返した出願について技術課題が少なくなり、アイデアの枯渇状態となった可能性が高いと思います。
しかし、昨年の大地震によって2011年の出願件数は増加したと思います。(検索期間に含めていませんが…)
現在多くの方が生活する家などの耐震・免震技術の大部分は、1995年~2000年の間に基礎的な出願があり、その後
2008年ごろまで改良が繰り返された出願群によって確立された技術であると思われます。
そして、2011年以後に出願の増加が見られたとすれば、また新たな概念による技術が発展し、その技術に支えられた建築物が増えるかもしれません。(そう期待したいです。)
それにしても、2010年の出願件数の少なさは驚きました。
今回の分析では、耐震・免震技術のニーズの発生要因はやはり災害発生に関連していることがわかります。
さらに、現在の耐震・免震技術は2010年までにアイデアの枯渇状態に陥っていたように見受けられうことがわかりました。
今回は、ここまでにします。
次回は、出願件数の多い出願人にもスポット当てて分析したいと思います。
ここまで、読んでいただいて感謝いたします。
ありがとうございました。
1-1 耐震構造と免震構造の違いって?
なんと言っても日本は地震大国です。
そんな日本だからこそ耐震や免震については多くの研究がなされています。
日本在住の人にとっては、切っても切れない技術かもしれません。
そこで、1990年~2010年の間の耐震・免震構造について見ていきたいと思います。
どのような技術の変遷が見えてくるのでしょうか?
一言で耐震・免震技術といっても、高層ビルや住宅、家具類や精密機器、計算機など様々な分野おいて使われる技術です。
その全てをひっくるめてしまうと膨大な量になってしまうので、少々大雑把なくくりで「建築物に関する耐震・免震構造」の範囲に絞って分析していこうと思います。
それでは、まず「耐震構造」と「免震構造」の違いから。
せっかくなので、1990年に公開された特許を使って説明します。
(1)特開平02-136477(発明の名称:高層建造物の耐震構造)
3頁左下欄1行目~5行目に「中小地震時における早期の損傷を防止するとともに、振動の高次モードによる各層の層間変形を小さくすることができ、且つ最も危険な層崩壊を防止することができる。」と記載されています。
つまり、耐震構造の考え方は、
①建物自体の崩壊を防ぎ、中にいる人の圧死などを防ぐための構造
②建物の柱や梁などの強化など建物自体に施す技術
と言えます。
(2)特開平02-035141(発明の名称:免震装置)
3頁右下欄19行目~4頁右上欄2行目に「地震周期と共振しない固有周期を建築物に対して設定することにより、地震の際には建築物の揺れを最小限に抑制することができる。」と記載されています。
つまり、免震構造の考え方は、
①建物の揺れ自体を抑制するための構造
②建物の下部(地面との間)に免震装置を設置する技術
と言えます。
地震対策として、他に制震構造というものもあります。
これは、簡単に言うと建物自体に揺れを抑制する構造(装置)を取り入れる技術です。
故意的にこの範囲まで広げるとボリュームが増えてしまうので、また別の機会にしたいと思います。
簡単に書きましたが、耐震と免震の違いはわかっていただけたでしょうか??
今回はここまでにします。
次回は、耐震・免震の出願傾向について見てみたいと思います。